カブトムシになった日
どうしても行きたくなって一人で辺鄙な山の中へ。電車とバスを乗り継ぎレストランのお迎え車にも来てもらってようやく辿り着いたL'évo。
こんなところにまでアジア系グルメ旅行者が来ているとは想像もしていなかったけど、レフェルヴェソンス、セザン、山の客層も殆どが外国人だったことを思い出す。

一品目は透明な液体。ただの液体だ、と思ったのは最初の一瞬だけだった。
透明な樹液が注がれていたのは、富山・岩瀬を拠点に活動するガラス作家、安田泰三氏の器だった。「職人ではなくアーティストになりたい」という信念のもと、自らの意志だけで作品を生み出し続ける人物の手仕事が、山から採ってきたばかりの液体を受け止めていた。
L'évoのオーナーが、その器を選んだ理由が、伝わってくる。これは「飲み物の提供」ではない。「今日これからはじまるすべての、序章です」という、言葉を使わない宣言だった。
L'évoは、器の作家について何も語らない。それでいい。本物の価値は、求める者にしか発見できないのだから。
初めて飲む樹液。想像していたのはさっぱりした木の香りのミネラルをーターだったけど、そのお味は… 甘い!
ほんのり甘くて、とても優しい複雑な何とも言えない上品な甘さ。今まで飲んだドリンクの中で比べ物にならないほど美味しいジュースだ。
今までカブトムシを代表とする昆虫たちのこと、ただの虫だと思っていてゴメンなさい。同じグルメ趣向者だとは想像もしていなかったよ。

お皿の上には、地元の植物や動物(ツキノワグマ)をふんだんに使った料理。ペアリングのノンアルコールドリンクもまた地元の植物から作ったオリジナルドリンクで、どれも濃厚な自然の味と香りを感じることができた。複数の素材を使ったドリンクは独創的な組み合わせが新鮮で、そのハーモニーを舌と鼻で追っていくという愉しい体験だった。
料理はスタッフによる詳しい説明とともに丁寧に提供され、富山の自然を全身で感じながら美味しいフレンチをいただいた。

ゴツゴツした獣の土色の骨がカウンターに置かれている。動物の命をいただいているという事実を、L'évoは隠さない。
その骨を見た瞬間、私はアレキサンダー・マックイーンを思い出した。骸骨をジュエリーに変えたあのデザイナーと、動物の骨を空間の中心に据えるこのレストランは、同じ問いを投げかけている。
「命を纏うことの、どこが怖いのか」と。
■ Information
Restaurant / Auberge : L'évo(レヴォ)
Location : 富山県南砺市利賀村
Access : 電車とバスを乗り継ぎ、最後は専用車に揺られて辿り着く「前衛的ガストロノミー」
Menu : おまかせコース & ノンアルコール(ボタニカル)ペアリング
Date: 2024年4月
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